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名古屋地方裁判所 昭和30年(行)19号 判決 1960年6月27日

原告 水谷嶽雄

被告 昭和税務署長

訴訟代理人 林倫正 外四名

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十九年十二月三日原告に対して為した昭和二十八年分所得税の総所得金額を金三十七万円と更正した決定のうち金二十二万円を超過する部分は之を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として原告は被告に対し昭和二十八年分の所得税に関し昭和二十九年三月十五日、総所得金領を金二十二万円と確定申告したところ、被告は同年十二月三日金三十七万円と更正する旨の決定を行い、同月八日原告はその通知書を受領したので、昭和三十年一月三日原告は被告に対し再調査請求を為したが、同年二月四日棄却の決定があり、同月八日書留郵便を以て該決定の通知を受けた。これに対し原告は更に訴外名古屋国税局長に対して同年三月九日審査請求を為したところ、同局長より同年六月十日審査請求を棄却する旨の決定が為され、同月三十日その通知を受けた。しかしながら被告の更正決定は違法であるから、請求の趣旨記載の超過部分の取消を求めるため本訴に及ぶ。

と述べ、被告指定代理人の本案前の抗弁に対し

原告は一ケ月以内とは通常の考えに従い、二月九日から三月九日迄の三十日間と思惟してその期間内に提出したものである。仮に遅滞したとしても僅か一日のことであり、宥恕すべき事情にあるから審査請求を却下するは失当である。現に訴外名古屋国税局長は審査を為した上本訴を理由なしとして棄却しているものである。と答えた。

立証<省略>

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、本案前の抗弁として、原告の被告に対する再調査請求に対し、被告は調査の結果理由なしとして右請求を棄却する決定を為し、昭和三十年二月七日書留郵便を以てこの旨原告に通知を為し、同月八日原告は右通知書を受領した。然るに原告は同年三月九日訴外名古屋国税局長に対し審査の請求を為したが、訴外局長は右請求は所得税法第四十九条第一項に規定する期間(一ケ月以内)経過後に為された不適法な請求として同条第六項第一号によりこれを却下する決定を為しその理由を附記した書面によりこの旨原告宛通知したものであるから、本訴は行政事件訴訟特例法第二条、所得税法第五十一条所定の適法な訴願裁決を経た訴とは云えないので速かに却下さるべきである。

と述べ、本案に対する答弁として「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、請求の原因に対し原告の確定申告金額は零円であり、更正年月日は昭和二十九年十二月三日でなく十一月九日である。原告に対する審査決定は棄却ではなく却下したものであつて、原告がその旨の通知を受けたのは同年六月十二日であつた。被告の為した更正処分には何等の違法は存せず正当な課税であるから、本訴請求は失当である。その余の事実はすべて認める。

と答えた。

立証<省略>

理由

先ず本案前の抗弁について判断する。

原告が被告のなした昭和二十八年度分所得額の更正決定に対し昭和三十年一月三日再調査請求をなしたところ、同年二月四日棄却の決定が為され、同月八日書留郵便を以て該決定の通知を受けたこと、原告が之に対し訴外名古屋国税局長に対し審査請求を同年三月九日に為し、その後これに対する処分の通知を受けたことは当事者間に争がないが、訴外名古屋国税局長が右審査請求を棄却したか、或は却下したかについて争があるのでこの点につき判断するに、その方式及び趣旨により名古屋国税局協議団本部長が職務上作成したものと認められるので、真正に成立したと推定される乙第五号証の記載によれば協議決定欄の処理区分本審査の結論として「却下」と記入され、その理由として「審査請求は法定期間経過後に為されたものであるから法第四九条第六項第一号前段の規定により上記のとおり判定する」とあるところからみれば、原告の審査請求は実質的な審査を経ないで、法定期間経過後になされたという理由で却下処分を受けたことが明らかである。尤も、右乙第五号証には、「昭和二十九年十月九日国税局協議団通達二二八号『審査請求を却下する場合における原処分の誤びゆう訂正等の取扱について』と題する内部通達に基き原処分に誤りがあるや否や検討するに原処分を訂正する要はないものと認む」と記載されているが、これは原処分の実質的な審査を為すものでなく、計数上の誤びゆう乃至誤字脱字等の訂正を目的とするものであることが判文上認められるので、これを以て原告の主張する如く訴外名古屋国税局長が審査を為したものであるとみることは到底できない。本件において原告が再調査請求棄却決定の通知を受けたのは前記のとおり昭和三十年二月八日であるから所得税法第四九条第一項の規定によれば同日より一ケ月の期間内に審査請求をなすを要するところ、原告が名古屋国税局長に対し審査請求をしたのは前記のとおり同年三月九日であるから、右審査請求は法定期間経過後になされたことは民法第一四〇条、第一四三条の規定に徴し明白である。被告は右期間不遵守は僅か一日にすぎないから宥恕すべき事由があると主張するが所得税法第五〇条によれば審査の請求の目的となる処分に関する事件については訴願法の規定を適用しない旨定められているから、訴願法第八条第三項の宥恕すべき事由ありと認む時は期限経過後も受理し得る旨の規定の適用の余地がない。従つて訴外名古屋国税局長が右審査請求を却下したのは正当であるというべきである。

右の如く、所得税額の更正決定に対する審査請求が不適法として却下された場合において、右却下決定が正当である以上、もはや訴訟を以てしても審査の対象たる更正決定の当否を争うことは許されないものと云うべきである。

とすれば本件請求については本案の当否について判断する迄もなく不適法として却下を免れないから、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤淳吉 小淵連 水野祐一)

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